ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ

遠山日出也

第2回WAN総会

2011年5月22日、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の第2回総会がおこなわれました。

総会では、2010年度の事業報告・決算報告、2011年度の事業計画・予算案などが提出され、すべて承認されました。新役員も承認されました。

WANのNPO法人会員は300名を超え、サイトのへの月間アクセス数も10万近くになったとのことです(のち、同年10月の「会員ニュース」で、10万を突破したという報告がありました)。全体として、WANは発展していることが理解できました。ただ、「アクセス数」の定義をハッキリさせておいた方がいいと思いましたが(こうした点は、あとで、会員の意見として既にWANに直接申し上げています。ページビューの数値を「アクセス数」と言うことが比較的多いのですが、必ずしもそうではありませんので)。

2010年度決算報告では、WAN争議の解決金はWANの会計から支出するのではなく、理事の有志の寄付によってまかなったことも報告されました。この点は、常識的で妥当な判断だと思いました。

今度の総会では、WAN争議の際に責任をって辞任なさった理事長と副理事長のうち、事前に上野千鶴子理事長がおっしゃっていた(「WANセカンド・ステージ。その次のステップへ。」)牟田和恵さんと古久保さくらさんだけでなく、伊田久美子さんも理事に復帰なさいました。すなわち、争議の際に辞任なさった理事長と副理事長は、みなさん理事に復帰したことになります。私は、3人の方の争議ないし争議終了後の行動には批判を持っていますが、お3人とも「行動する学者」としてさまざまな運動もやってこられた方ですし、トータルな力量は持っておられると思いましたので、復帰の承認には反対しませんでした。

私の発言について

私は、資料(「第2回WAN総会配布文書[PDF]」)を会場に配布して、以下のの点を要望しました。
 .2010年5月にWANにおける労使紛争が和解した際に理事会が組合(ユニオンWAN)に謝罪なさった内容((1)平成21[ママ]年12月に組合員遠藤礼子の仕事を外したこと、その後、事務所の閉鎖及び突然の2人の退職勧奨に至ったこと。(2)それらのことについて組合及び組合員と事前に相談、協議がなく実施したこと。  (3)これまでの労使のやり取りの中で組合に対して不適切な言動があったこと)を、WAN-NEWSで会員などに、理事会の反省点として表明してほしい(とくに(2)と(3)の2点については、それまで理事会がまったく反省を表明してこなかった点なので、重要である)。できれば、その原因についても解明してほしい。
 .組合との和解成立後、理事会が、ユニオンWANのブログの記述について異議を言うために、いきなり弁護士を通じて、「誠意ある対応がなければ、断固たる法的手段を執る」と書いた内容証明を、ユニオンWANの遠藤礼子さんに送付した。そうしたやり方は不適切だった点を遠藤さんに一言、お詫びしてほしい。

これらの点は、すでに2011年1〜4月にかけて、私が理事会に直接提案する形でお願いしてきたことですが(遠山日出也「WAN理事会への3通の手紙――WAN争議における謝罪=反省点の表明を求めて」)、理事会に受け入れてもらえなかったので、総会の場でも提起したわけです。しかし、総会でも議論はまったく前に進みませんでした。ですから、以下で述べることは、すでに述べたことの繰り返しになっている個所が非常に多いのですが、一応ご報告しておきます。

謝罪については、会員にも報告している?

前理事長の中西豊子さんや現理事長の上野さんは、「謝罪については、すでに会員にも報告した」、「もう昨年(2010年6月)の総会で決着のついた問題だ」といったような答弁をなさいました(録音したわけではありませんので、正確には異なった言い方をされていると思いますが、だいたいの趣旨としては、そういった内容のお答えでした)。

けれど、「謝罪については、すでに会員にも報告している」という点について言えば、理事会がWAN-NEWSなどで謝罪を表明したのは、「ご退職いただけるよう(……)お願いをせねばないのは(……)大きな責任を感じている」という一般論を別にすれば、「NPO運営や雇用についての見通しの甘さが理事会にあった」ことくらいです。とくに、理事会が和解の際に謝罪なさった[組合員遠藤礼子の仕事を外したこと、その後事務所の閉鎖及び突然の2人の退職勧奨に至ったこと」について「組合及び組合員と事前に相談、協議がなく実施したこと」に関しては、それまで会員に対して反省を表明してきたどころか、逆に「事前に相談、協議がなかった」ことを批判する組合側を非難してきました(WAN理事会「WANをささえてくださっている皆様へ この間の事情の説明」2010.2.14)。

第1回総会で決着がついた問題?

また、「もう昨年の第1回総会で決着のついた問題だ」という議論も、以下ののような理由で納得できません。

.理事会が、上のような点について反省点や再発防止策を表明していないことは、現在のWANにとっても、以下のような点でマイナスになっています。
 (1)それまで自らを正当化する宣伝をおこなってきた行動について謝罪したにもかかわらず、その謝罪については現在も口をつぐみ続けていることは、フェアなやり方ではなく、WAN(理事会)に対する信頼を損なっています。
 (2)WANにおける民主主義や人権を保障する上でも、謝罪=反省なさったことを会の中で公表しないことはマイナスです。するべき「相談や協議」をしなかったことや「不適切な言動」をしたことについて、自らに非があったことを表明なさることによってこそ、今後は「相談や協議」を大切にすることや「言動」に注意するという姿勢を示すことができます。理事会が上の点について口をつぐんだままならば、「もし何かトラブルが発生したら、また同じようなことを繰り返すのではないか?」という疑惑を持たれることは避けられません。
 (3)他の非営利団体でも雇用や労働(ボランティア労働を含む)の問題はしばしば発生してきましたが、WANには、この点で範を示してほしいのです。もし理事会自らが、今回反省(謝罪)した内容を認め、広く公表なされば、他の非営利団体の運営者が襟を正したり、不当な扱いを受けている賃労働者やボランティアを力づけたりするために役立つでしょう。

.提案で述べているように、むしろ「争議当時の理事長・副理事長が理事に復帰なさろうとする今[=第2回WAN総会]が、反省点を表明なさる好機」でした。

.理事会は、第1回WAN総会の前に、2010年5月13日付で、WAN法人会員に向けて、「お二人の雇用問題」についての経験にもとづいた理事会の認識を示した文書を送付なさっていますが、その際、この文書は「総会および今後の議論に役立て」(下線は遠山による)るためのものだと書いておられます()。すなわち、理事会自身も、WAN争議の経験から得られた認識(その認識は私とは大きく異なりますが)について、第1回総会の後も、会の内部で継続して議論をする意思を示しておられたのです。

お金を負担したから、いい?

また、前理事長の中西さんは、解決金はWANの会計からではなく、理事の方々の財布から出したことを指して、私に対して、「理事たちはお金も負担したのだし、これ以上のことは、もういいでしょう」という趣旨のことをおっしゃいました。

これは、私には思いもよらない発想でした。もし、今回の件が何かの刑罰か紛争処理だったら、「お金も負担したから、他のことについては、もういいでしょう」というような考え方も(場合によっては)ありうるでしょう。しかし、私は、今回の件について反省点を表明したり再発防止策を考えたりすることは、上で述べたように、WANをより良いものにしていくための前向きの努力だとずっと考えてきました。

労使の紛争中に、すでに理事会側の言い分はWAN-NEWSでたっぷり述べてこられたのですから、たとえばの話、理事会が、「昨年の労使紛争の際には、さまざまな事情があったとはいえ、私たち理事会の方にも、いくつかの点について組合との事前の相談・協議が欠けていたり、労使のやり取りの中で不適切な言動をしたという問題点がありました。今後はそうした点に注意します」という程度のことを表明なさること(「最低限」表明してほしい文言の例として、総会で配布したの文書の3ページ目に書いてあります)が、無理なことだとは全然思えないのです。そうした表明をなさることによってこそ、理事会に対する信頼感が増すのではないでしょうか?

私は当事者ではない?

さらに、上野さんは、私に対して「[あなたは]当事者でもないのに……」とおっしゃっいましたので、私は、すぐさま「会員としての責任です。WANの信用を高めて、WANにもっと発展してほしいから言っています」と言うと、上野さんに「あなたはWANのために言ってくれていると思うが、理事もいろいろ学んだし、今後の理事の行動を見て判断してほしい」といったことを言われ、なだめられました。

その後の理事の方々の行動について言えば、たしかに、理事の方々は次々に新しい企画をなさり、毎日記事を更新なさるなど、WANの発展のために奮闘していらっしゃいます。また、twitterを始めるなど、インターネットについていろいろ勉強している理事もいらっしゃるようです。

しかし、WAN争議の和解での謝罪内容を踏まえて改善された点があるかどうかと言えば、とくに思い当たることがありません。たとえば、「相談や協議」を重視するようになったというような変化は、特にないと思います。私には、WANのボランティアや運営委員に対する理事会の対応はわかりませんけれど、少なくとも一般会員に対してはそのように言えると思います(この点については、のちに私が書いた「WAN争議が提起した課題と現在のWANの問題点」を参照してください)。

噛み合わない理事会の回答や答弁に徒労感

私は、事前に理事会に対して、私の意見をできるだけ丁寧に説明した要望を出しており(遠山日出也「WAN理事会への3通の手紙――WAN争議における謝罪=反省点の表明を求めて」)、その時にも感じたことですが、理事会側の答弁は、とにかく私の議論をまったく踏まえていない、噛み合っていない感じで、私もさすがに徒労感を覚えました。このような噛み合ってない回答や答弁では、理事の方々が私の要望のどこが引っかかって受け入れられないのか、私にはわからないのです。

WAN総会は短すぎる。多くの会員が話し合える場がない

私が今回痛感したのは、WAN総会は短すぎるということです。今回の総会の時間は1時間で、理事会側の報告時間を除けば、会員が発言できる時間は10分ほどしかありませんでした。

私は、総会が1時間しかないことを知った時に、私の意見を印刷してきて配布することを決めていました。なぜなら、短い時間では私の言いたいことは言い尽くせないし、私ばかりが発言して、他の方が発言できなくなることは避けようと思ったからです(もちろん、それ以前に、理事会が謝罪について口をつぐんでいたので、正確なことをより多くの会員に知ってもらいたいという思いもありましたが)。それでも、私が読み上げたいと思っていた、私の提案の1ページ目を読む時間もありませんでした。また、自分の意見を印刷して配布するというやり方では、皆さんに私の意見を知ってもらうことはできても、みんなで議論はできませんから、やはり総会自体の時間を長くする必要があると思います。

また、総会だけでは限界があるので、会員なら誰でも出席できるような会議(もちろん「拡大○○委員会」のように、既成の会議を拡大してもいい)をやるような工夫をする必要もあるのではないかと思いました。そうしたことをすれば、WANサイトは会員の誰もが見ているのですから、さまざまな意見が出て、みんなでサイトをより良いものにしていく話もいろいろと出てくるのではないでしょうか?

会員間で意見の交換をする場が少ないことは、他の多くの団体にとっても課題なのかも……

のちに、私は、同年11月のクィア学会の第3回総会で、ひびのまことさんも、自らの「意見集」を「資料」として配布なさったことを知りました(「クィア学会 第3回総会における配布資料」ばらいろのウェブログ[その2]2011年11月11日)。ひびのさんがこの「意見集」を作成された理由については、意見集の冒頭に、「(私には)たくさん言いたい意見があるのですが、あまり私ばかり発言しても良くないのと、より私の意見を詳しく知って欲しいので」と書いてあり、私が資料を作成した動機と同じだったので、やはり同じようなことを考える人がいらっしゃるのだと思いました(私も、ひびのさんのように、資料を作成して配布する意図を書いておけばよかったと思いました)。

ひびのさんは、その「意見集」の中で、「現在のクィア学会は、会員間で意見の交換をする場がほとんどありません。そのため、実際には学会内部に様々な意見があるにもかかわらず、それらが可視化しておらず、本当に形式だけの合意によって運営されていると私は感じています。(そして、幹事会が独自の判断で事を進めてしまったり、もしくはそうせざるを得ない状況になっている、とも思います)」ともおっしゃっています。これも、私がWANについて、あるいはそうではないか、と感じていることと同じです。

私は、クィア学会の会員ではなく、同学会の内情については存じ上げません(ですから、ひびのさんがおっしゃることが本当に当たっているかどうかもわかりません)。ただ、クィア学会のサイトを見ると、同学会は、総会に1時間45分(第1回)、1時間30分(第2回〜第4回)と比較的時間をかけておられます。また、会員の方がウェブ上でおこなった抗議に対して幹事会からの返答が2度にわたって掲載されているなど、比較的オープンな会のようです。そうした会においても、もし、ひびのさんがおっしゃるように問題が残っているのだとすれば、(執行部以外の)会員間で意見の交換をする場が少ないことは、さまざまな団体にとって共通の問題なのかもしれないと思いました。

(注)

詳しく紹介すると、WAN理事会の2010年5月13日付でWAN法人会員に送られた、「お二人の雇用問題」を論じた文書の冒頭部分に、「この経験[=WANにおける労使紛争]を踏まえての雇用についての今後の課題(……)についても、不十分ではありますが、現時点での認識を述べさせていただきます。長くなりますが、理事会の問題意識を皆様方にお知らせし、総会および今後の議論に役立ててまいりたく存じますので、よろしくお願いいたします。」(p.1、下線部は遠山による)とあります。また、この文書の最後には、「今回の経験を教訓にして、以上のような課題を皆様とともに考えていきたいと願っています」(p.6、下線部は遠山による)とも書かれています。要するに、理事会としても、WANにおける労使紛争の教訓については、総会の後も、理事会以外の会員とともに考えていく、という立場に立っていたと言えます。

※以上の第2回WAN総会についての記述は、総会当日のメモをもとにして、その後の経過と併せて、2012年3月4日に記したものです。

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